救援

 何日か前、甲子園の1回戦組み合わせの抽選があった。全国的に見れば決して強豪とは言えない、私のまちの高校の主将が「目標は全国制覇です」と言い切ったのが印象的だった。10年前なら「ビッグマウス」と叩かれてもしょうがないが、マー君擁する駒大苫小牧が偉大な実績を残したので、いまは北海道の高校が優勝という目標を掲げても、現実離れしたものではないのかもしれないと思い直した。

 今日、ドライブの途中でラジオをつけたら我がまちの高校が京都代表と戦っていて、9回裏の時点で2点リードしていた。案外強いのかもしれないと思ったら、あっという間に追いつかれた。詳細な状況は覚えていないのだが、まだランナーが残っていて、一打出ればサヨナラ負けという状況で、我がまちの高校の監督は、ピッチャーを交代させた。アナウンサーが言ったリリーフについての情報は、多彩な変化球を投げることと、北北海道大会での登板の実績がないということだった。つまり、ぶっつけ本番ということだ。

 監督がこのような状況をあらかじめ予想していたとは考えにくい。エースにこのままマウンドを託しても、勢いづいた相手チームの打線を抑えることができるとは思えず、じっとしていられなくなって実績のない2番手をマウンドに送り込むことにしたのではないかと、緊張を強いられる場面でそれまで考えたこともなかった選択を下してしまう私は、自分の身に置き換えて考えていた。

 あるいは、甲子園に出たという名誉をベンチ入りした部員が等しく享受できるよう、監督は控えのピッチャーに記念登板のチャンスを与えたのかもしれない。

 2番手の身にもなって考えると、これほど緊張する場面もない。いきなり任されたのが、甲子園のマウンド。日曜日の朝、スタンドには無数の観客がいて、テレビでもラジオでも全国中継している。そこで「お前、投げてこい」。私が予想したのは、四球、押し出し、サヨナラ負けという最悪のパターンだった。

 ところが、2番手はあっさりと打者を打ち取り、ゲームは延長戦へ。次の10回もなんとか失点なしで切り抜けた。11回にはつかまってしまい、あえなく我がまちの高校は1回戦で甲子園を去ることになってしまった。主将が掲げた目標はやはり現実離れしていたのかもしれないが、立派な戦いぶりであったことは間違いない。

 私が関心があるのは、今回の経験が2番手個人にどのような影響を及ぼすのかだ。彼が今後も野球を続けるのかどうかは知らないが、いつか野球を離れ、会社員にでもなったとき、今回の経験が絶対的な「持ちネタ」になることは間違いないと思う。

 会社の飲み会で、まずは先輩にその時の気持ちを尋ねられ、1年後には甲子園ファンの取引先に質問され、2年後にはスナックにいっしょに行った同僚から「実はこの人は」と話題をふられて「いやもうその話はいいんだよ」と最初はいやがるそぶりを見せながら結局はまんざらではなさそうに話しはじめ、トークを繰り返していくうちに、だんだん話術もついてきて、余計な要素がなくなり、より感動的なストーリーも加わったりして、いつのまにか釈台を張り扇で叩いてテンポ良く9回裏から11回裏までの攻防を語るのではないかと予想してしまったが、これはあくまでも私が勝手に2番手の身になって作った話だ。

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