同窓

 卒業から30年ぶりに中学3年のクラス会を開いた。15人ほどが参加した。その大半と、この30年間一度も会ったことがなかった。

 昔、比較的仲良くしていたMは、札幌のソフトウェア会社で管理職に就いていた。同じグループにいたNは歯科医になって羽振りがよく、Sは父親の後を継いでこの地域では比較的大きな企業で役員を勤めていた。

 30年前、「ツッパリ」が流行した。私たち4人はその路線から一番遠いところにいた。クラス会には、比較的軟派だったツッパリ系の男子も3人ほど来た。いまも40代半ばにいることを断固否定するような髪型や服装だったが、いずれも職人として堅実に暮らしているようだった。

 私たちのクラスにはかなり本格的な「不良」がいたのだが、他に用事があるとの理由で欠席だった。いまは数人のとびを率いる真面目な社長だという。

 担任だったA先生は、数年前に他界していた。私たちを受け持ったころは、いまの私たちと同じくらいの年齢だったはず。だとすれば75歳を前に亡くなったことになる。正直、それほど先生にお世話になったという気持ちはないが、来れば喜んでもらえたのにとは思った。

 出席者の半分は女子だった。みな既婚者で、ほとんどは子どもがいた。当時、いわゆるイケている女子は4人いて、そのうち2人が来た。うち1人は、いまやオバサンの王道を突き進んでいて、私は一次会の会場の前ですれ違ったのだが、向こうから名前を呼ばれるまで気が付かなかった。もう1人のIは、年齢を考えればこの田舎町にはちょっといないくらいの美人だった。とはいっても、あくまでも年齢を考えればの話。現役には復帰できないがマスターズリーグ離れした球を投げる村田兆治のような美しさだ。

 2次会で酒が十分にまわったころ、誰が誰と付き合っていた、誰が誰に片思いを寄せていたというような、私にとって苦手な話題になった。私の隣に座っていた職人のKが、向かい側のIに言った。

「おれ、お前のこと好きだったんだよ」

 笑いながらではあったが、ドラマや歌で描かれるようなシーンが、本当にあるのかと私は思った。私も誰か好きな人はいたのかと聞かれたが、みんな順番でカムアウトしているのにこいつだけ飛ばすのは不自然だから聞いてみようという無関心さが十分に伝わっていたので、誰かが持ってきていた卒業アルバムを開き、隣のクラスのかすかに名前を覚えている女子の顔を指さすと、やはり「ああそうだったの」と無関心な反応だけが返ってきた。

 「私が会いたいのは」とIが言ったとき、同じボックスに座っていた男子と女子数人の関心が集まった。「隣のクラスのFなんだ」

 意外な名前だった。私はFと一緒のクラスになったことはなく、直接言葉を交わしたこともないが、彼の名前と顔はみんなよく覚えているはずだ。

 かなり変わった奴だった。普通の子どもと反応が異なり、周囲に無関心だったり、突然過敏に反応して大声を出したりした。いまなら医師やカウンセラーが状態や病状を示す言葉を何かつけて、適切に対応するのだろうが、恐らく彼にとって不幸なことに、彼は普通の中学校で普通のクラスに入れられた。いじめっ子たちに目をつけられ、頻繁に大声を出して叫んでいた。「殺してやる」といった叫びがFの口から出てくることもあり、私は芝居がかった滑稽な奴という属性とともにFを記憶していた。

 IがFに会いたいと願う理由も、意外なものだった。

 「Fってさ、いつもいじめられていたじゃない? 誰も助けてくれなくて。でも、着ている服をボロボロにされて、鼻血をダラダラ流していても、謝ったりいじめっ子の言うなりになったりしないの。泣きながら相手に向かっていくんだ。それを見て、ああ、この人はとっても心が強い人なんだって、すごい印象が残っていて……」

 他の女子が、Iの話を補足した。Fは1年間、学校に通えなかった時期があり、実際の年齢は私たちよりも1つ上。それが周囲との関係をうまく築けない理由のひとつだった。そこまでは私も30年以上前に聞いたような記憶がある。初めて聞いたのは、別の女子が話したFの境遇だ。Fはもっと幼いころ、父親に連れられて散歩しているとき、自動車にひかれそうになった。危ないところで父親がFを突き飛ばしてくれたために助かったが、身代わりとなった父親がはねられ、Fが見ている前で死んだ。

 幼いFの精神は大きな傷を負った。だからみんな、Fをいじめちゃだめだと隣のクラスの担任が言っていたという話を数人が記憶していた。Fの近況を知っている人もいた。定職には就かず、以前と同じ中学校近くの古い家で、母親と2人で静かに暮らしているらしい。

 その後、クラス会の話題は、当時の部活動のこと、最近のそれぞれの仕事、そして「40代になっていかに忘れっぽくなったか」という私が最も得意とする分野に移った。

 それから数日が経ったいま、もの忘れがひどい私としては当然、クラス会で出た話のほとんどを覚えていない。が、病的なほど色白な頬を赤いニキビが埋めていたFの顔が、何度も脳裏に浮かんでくる。

 幹事役のNはクラス会だけでなく、ほかのクラスも巻き込んだ同窓会を年内に開くつもりらしい。私はもう一度Iを至近距離で眺めてみたいが、仮にIが欠席するとしても、Fに会うために出席しようかと考えている。

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