継続

 歳をとると、という書き出しで文章を始めれば、そのあとは体力が落ちるとかもの忘れが激しくなるとか、ネガティブな言葉が続くのがこのブログの常だが、思えば悪くない変化もある。若いころにはひとつのことを続けることがまったくダメだった自分が、気がつけば一つのことをコツコツ続けていたりするのだ。

 まず、例のホームページである。3~4ヵ月野ざらしにしたこともあるので「継続」と呼べるかどうかは微妙なところでも、私と同じころに開かれたホームページの99%は跡形もなく消えているか、もう何年も更新されていないので、「続けている」と表現しても大きく外れてはいないだろう。「続けることが男のたったひとつの勲章だって、この胸に信じて生きていく」と口ずさみながら、これからも更新するのだと思う。

 継続力が出てきたのは意志が強くなったからではなく、科学技術の進歩のおかげでもある。もう3年近く、あるラジオ番組を1度も欠かさずに聞いている。震災の影響などでその番組が中止されたとき以外は。過去2年間の放送分は、録音した音声ファイルがパソコンの中に入っている。私は決まったテレビ番組を見るということが不得意で、途中で抜けてしまうのがわかっているから連続ドラマなどは最初から見ない。その私が3年近くも「継続」できているのは、ひとえにラジオ番組をMP3で録音する装置を買ったからである。昔はカセットテープがすぐ一杯になってしまい、交換を怠って録音が止まってしまった。今使っている機械はメモリ1ギガバイトと、いまになってみれば貧弱な容量しかないけれど、それでも音質を下げれば24時間は録音できる。

 毎日欠かさずではないけれど、断続的にということなら、フランス語講座もこの5~6年、聴き続けている。しかしフランス語が話せるようになる気配は微塵もない。ラジオ講座を聴き続けることと、話すようになることの間に広がるとてつもなく大きなギャップの存在に、5~6年の時間をかけてようやく気がついたというのも、コツコツ型への変化の証明ではないだろうか。昔なら1~2年で、これはどうもおかしいと気付いたはずだ。

 もう一つ、犬の散歩がある。もう10年、最低1日1回、妻が忙しいときには1日2回、犬と一緒に近所を歩いている。もっともこれは私の意志というよりも、犬が屋内で糞尿を撒き散らす事態を防ぎたいという、文明社会なら当然の理性的な判断によるものだ。

 さて、フランス語がいっこうに話せるようにならないという話とは多少矛盾するけれど、人間が抱えている問題のかなりの部分は、継続することで解決するのではないかと思うことがある。資格が欲しい。粘り強く勉強すれば資格が取れるけれど、大部分の人は途中で怠けてしまい、挫折してしまう。太りすぎの人も、たとえば1日100グラムのペースで痩せるようにすれば、1ヵ月で3キロ、10ヵ月で30キロも体重が落ちるのに、ダイエット開始後4日目でケンタッキーに吸い寄せられ、小脇にバレルを抱えて帰宅し、もうどうでも良くなってしまう。まじめな話、高血圧、糖尿病などの生活習慣病の人も、継続できるかどうかで生活の質が変わってくるのだと思う。

 ではいかに習慣や努力を継続させるかといえば、自分だけの力ではなかなか難しい。誰かが努力を見つめて、励ましてくれて、脱落しそうになったときには叱ってくれることで、継続率はグンと高まるのではないだろうか。

 私は最近、「続けさせ屋」という仕事に成立する余地があるのではないかと、真剣に考えている。たとえば減量。フィットネスなどダイエット関連の業者はたくさんあり、そこでは「こういう運動をすれば痩せやすい」などのノウハウを提供するだけでなく、利用者が途中で脱落しないよう、グラフを見せて努力の効果を実感させるとか、あごまわりがすっきりして美人になったと言葉で励ますとか、さまざまな働きかけを行なっているはずである。

 資格の通信資格なら、国家試験で出てきそうな問題をひたすら練習させるだけでなく、利用者が全国的にどのレベルにいるのかを知らせたり、先輩合格者に「心が折れそうになったとき、どう乗り越えたのか」といったエピソードを語らせることで、継続的な努力を促しているのだろう。

 私の考える「続けさせ屋」とは、こういったサービスのうちノウハウの提供以外を請け負う仕事のことである。利用者が決めた行為の継続をひたすらサポートし、その対価を受け取る。なにを続けさせるかは利用者次第。ダイエットかもしれないし、資格試験の勉強かもしれないし、ひょっとしたら自宅の整理整頓かもしれない。

 私のイメージする続けさせ屋の仕事の流れはこうだ。まず電話で申し込みを受けたら、サービスの概要を電話で説明。納得してもらえたら、直接会って面談し、顧客との共同作業でプランを練る。

私「さて、あなたはどんな目標を立てているのですか?」

客「カカトスベスベサロンを開くのが夢なんです。3年前に他界した父のカカトがまるでゾウの足のようにカチカチだったので」

私「それはあなたの夢ですよね。いや、夢は大切ですよ。夢は大きなエネルギーになる。でも、いきなりはカカトスベスベサロンは開けませんよね」

客「そうなんです。カカトスベスベサロンを開業するには、一般社団法人日本カカトスベスベ協会の実施する試験に合格してカカトスベスビストの資格を取らないとだめなんです」

私「その資格がないと、無資格営業になるんですか?」

客「いえ、無資格でも違法ではないんですけど、お客さんは資格の有無を気にするので、店の経営が成り立たないんです」

私「そうですか。では、あなたの目標をこう定義しましょう。『カカトスベスビストの資格を取る』。では、その資格をいつまでにとりたいんですか?」

客「カカトを出して歩くようになるのは早くても5月。施術を始めてから効果が出るまで約3ヵ月。開店準備の時間も考えて、今年の10月15日の試験に合格できればちょうどいいかな」

私「そのタイミングなら開店時、『今年の夏は、スベスベカカトでライバルに差をつけろ』という宣伝も打てそうですしね。試験が10月15日なら、私との契約もその日までということにしましょう。で、試験の内容は?」

客「学科試験と実技試験があります。これが学科試験用の問題集です。実技試験はふやかし、削りとり、研磨の3科目です」

私「えーと、問題集は4冊で、目次や解説を除けば実質合計270ページですね。いまから試験日まで33週間。1週間に10ページずつ進めば、余裕をもって準備を終えることができます。土日は復習にあてるとして、月~金曜日は1日2ページずつ勉強してください。学科試験対策の進行表は、私が作成して明後日までに郵送します。実技試験対策はどうするのですか?」

客「毎週金曜日の夜、となり町のカカトスベスベサロンで開かれる教室に通って教えてもらいます。毎週土曜日の午後、友人や家族に私の家に来てもらい、練習台になってもらいます」

私「その詳細なスケジュールを教えてください。実技試験対策の進行表も作りますので。今日の面談は以上です。『私に任せておけば絶対合格』なんて言うつもりはありません。合格も不合格もあなた次第です。でも、合格するまで、またはギブアップするまで、あなたを孤独にさせることはありません。それだけはお約束します。頑張りましょう」

 このあとは、電話またはメールで毎日決まった時間に連絡し、進行状況の確認、心理的な励まし、脱落しそうになった場合の面談などを行い、目標達成(上記の例でいえば資格取得。カカトスベスベサロンの開業ではない)をサポートするのが、続けさせ屋の業務内容である。ポイントは、カカトスベスベサロンという仕事や資格試験の内容について、続けさせ屋は最低限の知識しか持たず、かつ持たなくてもこの仕事が成立するということ。一方、継続を促すためカウンセラーのような知識や技能は要求されるのかもしれない。

 料金は面談時に登録料として3万円。以降、毎月のサポート料として1万円というところだろうか。資格取得や減量のために世間の人が払っているお金と比較すれば安いものである。登録と計画作成のさいの手間はかかるものの、その後は電話やメールによる連絡が主で、多数の顧客を同時進行でサポートでき、単価を抑えられることも、もう一つのポイントである。

 と、既存の仕事を解説するような気持ちで書いてしまったところで心配になり、「継続」をグーグルで検索してみた。ページの右側に「継続なら 続けさせ屋におまかせ」といった広告は一つも表示されなかったので、未開の地ではあるようだ。誰かこういう仕事を始めてみてはどうだろうか。私は、以前よりも継続力が強まっているとはいえ、自分の部屋をきれいに片付けようという決意は相変わらず5分ももたないので、他人様を指導するなんてとんでもない。誰かが続けさせ屋になり、上の例で紹介した人が実際にカカトスベスベサロンを開くまで、せめて辛抱強く自分のカカトに「ビタミンA油配合 ヒビケアFT軟膏 第3類医薬品」を擦りこむことにする。

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