誤認

以前にも書いたことがあるが、私の会社のパソコンは、ラジコを通じてなぜか東京のラジオ番組を聞くことができる。北海道の土曜日のAMには(私は苦手だが)聴取率5%台というお化け番組があるので、ラジコのエリア制限を解除したって何ら問題ないのにと思いつつ、土曜日に会社でラジコを聞いていたら、永六輔の番組が始まった。ほかの時間帯のほかの人の番組で、週末に永六輔の大型番組があるという話題が何度か出たために、この番組のことは知っていた。実際に聞くのは、東京に住んでいたころを含めこれが初めてだ。

永六輔と女性アナウンサーに続いて、「ラッキィ池田さん」と女子アナに紹介された男が中継先から登場した。ラッキィ池田といえば、昔よくバラエティ番組に出ていた振付師ではないか。パナソニックのビデオカメラのCMに出て、共演の鈴木保奈美の踏み台になるという、偏った性癖の人が見れば大変にうらやましがられるであろう役を与えられていたのを覚えている(そのような性癖の人をあえてひとくくりにするなら、キャタツィストとでも呼ぶのだろうか)。

おそらく、それ以来である。ラジオのラッキィ池田は、海外に行っていた永六輔が帰って来なければよかったのにといった冗談は飛ばしていたものの、話しぶりはきちんとしていた。ラッキィ池田という人物がどいう位置づけなのかはよく知らないのだが、なんとなくチャランポランなキャラクターを想像していたので、違和感を覚えた。

本当に「あの」ラッキィ池田なのかと疑問に思ってインターネットで調べてみたら、もう20年も前からこの番組のレポーターをしているという。安定したしゃべりでラジオ番組のレポーターというポジションをつかんだからこそ、毎年たくさんの人間が新たに現れては消えていく芸能界で生き残っているのだろうと、素人なりに考えた。

次に、ハブ三太郎が出てきた。毒蝮三太夫の弟子である。ところが、声が全然違う。喋り方もかなりナイーブになった印象だ。ラッキィ池田よりも、私の頭のなかの記憶と実際の落差がさらに大きい。永六輔くらいの影響力があると、番組のレポーターの声や喋り方まですっかり変えてしまうのだろうかと思いつつ、ハブ三太郎の方もネットで検索してみると、番組の公式ページに表示されたその人の顔写真は、私の知っている「ハブ三太郎」とは全くの別人だった。

たしか、1995年とか96年のことだったと思う。NIFTY-SERVEのとある会議室で、こんな発言を読んだ記憶がある。

「TBSの番組で永六輔が共演者のハブ三太郎を相手に、『パソコンは2進数だが、10進数にすればもっと計算が速くなる』などとわけのわからないことを言っていた」

この時点で私は、永六輔のラジオ番組も、ハブ三太郎の声も聞いていない。にもかかわらず、私の頭の中には、永六輔の的はずれなアイディアに困惑しながらも、創世記からテレビの世界にいる大物タレントの主張を否定するわけにもいかず、困惑を隠しながら適当に相槌を打つ、色黒で小太りの男が確かにいたのである。誰だお前。

その男は、昔からテレビで何度も見たことがあった。考えてみれば最近は見ていないが、私に言わせれば、その色黒で小太りの男は、毒蝮三太夫との間になにか共通点があるのか、「ハブっぷり」が板についていた。師匠ほどではないが巨人ファンといったイメージも、私は勝手にこしらえていた。

ネットで調べようとしたが、このニセモノについては、名前が「ハブ三太郎」だと私が勝手に思っていたこと以外、なんの手がかりもない。つい先ほどまでは明確に「ハブ三太郎」だったこの男は、私の記憶のなかで身元不明人として漂い続けるのだろうなと思いながら検索結果を2ページ目、3ページ目とたどっていくうちに、その人が同じ「三太郎」でも「魁三太郎」だということを知った。毒蝮三太夫とは関係なく、年寄りをころがす芸を師匠から受け継いだ事実もなく、横浜ベイスターズのファンらしい。

問題は、誰かに私がこの間違った知識をもの知り顔で語ったことが過去にあるかどうか。幸い、「毒蝮と愉快なジジババたち」も、本物のハブ三太郎が出る永六輔の番組もこちらでは放送されていない。家族や同僚、取引先との会話に毒蝮やその弟子が登場した記憶もない。ということは、私がテレビに写ったニセモノのハブ三太郎を指さして、「この人、毒蝮三太夫の弟子なんだって」と知ったかぶりをしたこともなかったはずだ(と信じたい)。

この間違いについては、私がたまたま聞いたラジオ番組に、誤解の対象になっていた人がたまたま出演したために気がついたものの、このような偶然がなければ、過去十数年間と同様、これからも十数年間、おそらくは永遠に私の頭の中で魁三太郎がハブ三太郎のポジションを占め続けていたのだろう。同じような間違いがほかにもたくさん、私の頭の中に刻まれているような気がする。

そんな話がいまひとつピンとこない人のなかに一人だけでも、この文章の中に「三太夫」という文字が出るたびに頭のなかで「さんたいふ」とスラスラ読んだ人がいたなら、神様が与えてくれた縁に素直に感謝したい。

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