田舎

娘がこの4月から東京の西部にある大学に通っている。外国の大都会で生まれ育った娘は、中学入学と同時に移り住んだ北海道での暮らしにすっかり退屈していて、たまの週末に札幌に行くことを何よりの楽しみにしていたから、東京に行くのも進学というよりは脱出の意味合いが強かった。

ところが、その大学に最も近い駅があり、バスの便が最もいいという理由で娘が部屋を借りた地域の周辺は、そこが東京であるとは信じられないくらい「田舎」らしい。娘が電話でこぼしたグチを総合すれば、そのあたりは夜になるとすっかり暗くなり、人通りもほとんどないという。それは震災後の自粛や節電の影響であって、腐っても東京なのだから「田舎」ではないだろう、と私は考えていた。

先週、知人が商談のためにうちの会社にやってきた。すぐ仕事の話は終わって雑談になり、知人が娘の大学の卒業生であることを初めて知った。

「○○駅の周辺は、人通りも少ないって聞いたんですけど、本当なんですか?」と、私。
「たしかにあのへんは寂しいですね」
「どれくらいの田舎なんですか? このへんで言うと」
「そうですね。駅の周辺の雰囲気でいうと、比布町くらいかな」

比布町といえば、かつてピップエレキバンのCMに登場して一瞬だけ全国的な注目を集めた町であり、ほかには北海道外の人に紹介できるような話題が何もない町でもある。私は、「駅の周辺で言うと」のあとに、人口10万人か、悪くても2~3万人、北海道外の人には予想がつかないと思うが、岩見沢とか、深川などの地名が来ると思っていた。比布といえば人口4000人。メガロポリス東京で輝かしい未来へと踏み出したはずの我が娘は、どこでどう間違えて人口4000人の町に迷い込んでしまったのか。

娘と同じようなグチを、私が住んでいるこのまちの教育大学に籍を置く中国人留学生から聞いたことがある。

「私、中国にいたころ、日本ってみんな東京だと思ってたんですよ。ここに着いたらすごい田舎だったで唖然としました。私の生まれ育ったところは人口900万人くらいで、50階建てのビルも珍しくなかったですから」

私は豊島区・練馬区・板橋区・北区あたりも東京の一部であることを知っているが、テレビを通して見る六本木やお台場、汐留、新宿、渋谷だけが東京だと娘が思っていたとすれば、落胆するのも無理はない。

私も若いころ、東京に何年か住んでいたが、池袋から南はほぼ未知の領域だった。娘がいま住んでいるあたりについてもほとんど印象がないのだが、考えてみれば、その周辺地域のどこかに、測量のような仕事のアシスタントとして、数日間だけ通ったことがある。資料作成のため、家屋が建てられた時期を所有者に尋ねてみると、東京の下町ではほとんどが戦後に建てられた家であるのに対し、その地域には江戸時代に建てられた農家の旧家もあった。数十年前まで猟師が鉄砲をかついで駆け回っていたような場所であり、だとすれば比布との差は、当時の獲物がイノシシだったか、ヒグマだったかくらいしかないということになる。

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